カメラの前に立たずに動画を作る、という発想はもう珍しくない。HeyGen が面白いのは、その敷居を「写真一枚」まで下げてしまったことだ。正面から撮った顔写真をアップロードすると、それが口を動かして喋りはじめる。技術デモとしての驚きは一瞬で終わるが、驚きが去ったあとに残るのは「これで足りてしまう用途がかなりある」という実感のほうだ。社内研修、商品説明、採用案内 — 顔出しの必要はあるが、撮影のために人と機材とスタジオを揃えるほどではない仕事が、世の中には大量にある。
使い方は拍子抜けするほど簡単だ。アバターを選び、喋らせたい文章を打ち込み、生成を押す。台本を書く代わりに PDF や記事の URL を渡すこともでき、その場合は要約から構成まで含めて2分ほどで一本組み上がる。ストックのアバターは500種類以上あるので、まず既製のもので流れを確かめ、必要になってから自分のアバターを作ればいい。自分の分身を作る場合も、30秒ほど自分を撮影すれば済む。
強みが最もはっきり出るのは多言語だ。作った動画を175以上の言語に翻訳でき、しかも音声の差し替えだけでなく口の動きまで合わせてくれる。日本語で作った説明動画を英語圏の顧客向けに出す、あるいは英語の本社資料を日本語チーム向けに直す、といった往復が数クリックで済む。日本語の公式ページが用意されている点も、この分野では珍しい配慮だ。音声のクローンにも対応していて、既存のナレーターの声を保ったまま言語だけ変えることもできる。
手放しで勧められるかというと、そうでもない。無料枠は月三本・一本一分まで・透かし付きで、これは「試す」ためのもので実務には足りない。本気で使うなら課金が前提になる。もう一つ、法人向けプランが基本料金に席数課金を足す形になっていて、人数が増えたときの費用が事前に読みにくい。個人や小規模チームなら気にしなくていいが、部署単位で入れる場合は見積もりを取ってからのほうが安全だ。生成物の質そのものは、正面向きの説明動画では十分だが、感情表現の幅を求める用途にはまだ届かない。
料金は月29ドルの Creator から。年払いにすると実質24ドル相当まで下がる。クレジット制で、月600クレジットが付く。日本語は UI・公式ページとも対応していて、この分野で日本語の情報が探しやすい数少ないサービスだ。判断の分かれ目は「顔出しの動画を、月に何本作るか」だろう。月一本なら外注のほうが安いかもしれないが、月に何本も要るなら初月で元が取れる。
撮影の予定を組み、機材を用意し、撮り直しのために再集合する — その一連が要らなくなる、というのがこのサービスの本当の価値だ。最初に無料枠で一本、実際の台本を入れて作ってみてほしい。出来上がったものが「思ったより使える」なら、あなたの仕事にはもう外注が要らない。
機能で見落とされがちだが実務で効くのが、素材の使い回しだ。一度作ったアバターと音声の組み合わせは保存され、次の動画では台本を差し替えるだけで同じ「話し手」が喋る。シリーズものの説明動画で人物が毎回変わると視聴者は落ち着かないが、その心配が要らない。逆に、同じ内容を別の人物で作り分けることもできるので、部署ごとに顔を変える、といった運用も可能だ。
導入の順序としては、手始めに既製アバターで社内向けの一本を作り、反応を見てから自分のアバター作成に進むのが安全だ。自分の顔を使う場合は、社内規程や本人の同意の扱いも整理しておきたい。作った分身は退職後も残るため、素材の管理まで含めて運用を決めておくと後で揉めない。技術の話より、こうした運用の設計のほうが実際には難所になる。